JUONのあの人: 第47回 藤原利廣さん

第47回 JUONのあの人
藤原利廣さん

藤原さんは、1932年に徳島県美馬郡重清村(現・美馬市)に生まれた。高校の林業科を卒業後、徳島県庁に就職し、退職後は吉野川(三好)流域林業活性化センターの専務理事に就任。一貫して森林・林業に携わってきた。JUON設立後は、2003年度まで理事も務める。「知人の肩代わりでできた祖父の借金の返済に、父も一生懸命。でもたまに、『昔の田や畑があれば』と愚痴をこぼしてな。『今に見ておれ』と人生のバネになったわけです。」
 


阪神淡路大震災の支援活動として、大学生協は仮設学生寮を建設しましたが、その際、徳島県三好地域の林業関係者により間伐材製ミニハウスが提供されました。このことが、JUON設立の大きなきっかけですが、その中心人物の一人が、藤原利廣さんです。昨年、人生の歩みを『徳島 林政の現場に生きて』にまとめられた藤原さんに、これまでの取り組みや思いについて語っていただきました。
 
 

山村と都市と、人と人とのつながりの窓口として期待したい。


「やってけた事業を被災地に活かせんか?間伐材のミニハウスを、仮設住宅として利用でけんかなと思ったわけなんですよ。」

阪神淡路大震災の日、藤原さんは、徳島の自宅で大きな揺れを感じて目を覚ます。甚大な被害状況を知るにつけ、これまで取り組んできた木材利用の事業を活かし、被災地に貢献できることはないかと考えた。徳島・山城町森林組合には、自らが中心的に関わって立ち上げたログハウス工場がある。これを機に知り合った建築家の福家克彦さん(JUON元理事)と取り組んでいた間伐材製ミニハウスキットを再設計し、仮設住宅として普及することに思い至る。

「5棟でも、10棟でも困っている人に提供しようとね、神戸にもっていて、ミニハウスの存在をアピールせないかんと。」

そして、その費用の算段を山城町の西徹町長(JUON元理事)に相談する。町役場の担当課長が難色を示したものの、了解を得ることができた。しかし、受け入れ先の確定に四苦八苦することとなる。そのようななか、携帯電話に連絡が入った。

「小林さんから電話がかかってきたんです。杉の間伐材でできたミニハウスについて、ある大学の先生から聞いたと。山城町の大歩危峡にあるホテルに来てもろうたんですよ。」

全国大学生活協同組合連合会の常務理事であった小林正美さん(JUON副会長)と会うことになる。当時、吉野川(三好)流域林業活性化センターの専務理事であった藤原さんは、この取り組みを、三好地域の活性化に結びつけ、三好郡8ヶ町村全体の取り組みにすべきだと考えていた。そのため、その会合には地元から西さんをはじめとした町村長、森林組合のほか、20名近いメンバーが参加することになる。そして、協力が決まり、芦屋のテニスコートに58棟の間伐材製ミニハウスが提供され、4月末にすべての仮設学生寮が完成した。

「これまでの苦労も忘れましたわね。学生の笑顔に感動したんですよね。西さんに『よくやったのう』と言われて、感激したわけですわ。」

その後、仮設学生寮に住む学生、建設のボランティアを含めた、大学生協と三好地域の交流は続く。そのなかで、「樹恩割り箸」も生まれ、JUONも設立された。そして、「森林の楽校」へもつながっていく。

「森林・林業を理解してもらいたいと、都市に向かって言うても、なかなか情報を伝達できない。JUONという媒介を通じて訴えられれば、私達の気持ちが伝わると思うんですよ。それが、JUON設立の一番大きな成果。」

藤原さんは、高校の林業科を卒業後、徳島県庁に就職した。森林計画の作成、林業改良指導員、林業専門技術員など森林・林業一筋で、退職後は、吉野川(三好)流域林業活性化センターに。実は、定年後は実家の農業に専念しようと思い定めていたが、その仕事ぶりにより、町村長達から請われ、専務理事就任を決意した。

週2~3日の勤務の予定だったが、いざ着任するや、子ども時代に父から言われ、身についた習性が抑え切れない。自ら事業も発案して、精力的に森林・林業・山村の活性化のため仕事に取り組んだ。

「祖父が、知人の連帯保証人になって資産のほとんどを失った。子どもの頃は貧しかったんですよ。父の信条は『働くこと、努力すること』。子どもにも山で伐った木を毎日家まで運ばせおる。」

苦しい生活のなかでも、その後、両親が人並み以上の教育の機会を与えてくれたことに感謝しているという。その経験や思いが、森林・林業に取り組む姿勢につながっているのだろう。最後に、JUONに対する期待を伺った。

「山村と都市とのつなぎ役、人と人とのつなぎやな。そういう異業種とのつながりの窓口として期待しおるわけです。自分でも、できるだけ都市との交流を応援したい。」
 

  • 2019年7月3日セルプ箸蔵の割り箸工場で記念撮影。

  • 2000年6月3日「第2回総会・記念イベント」の際の藤原さん。
 
鹿住 貴之・蓮見 澄
JUON NETWORK 2021年 第117号