JUONのあの人: 第43回 若林靖永さん

第43回 JUONのあの人
若林靖永さん

若林先生は、1961年愛知県東春日井郡旭町(現・尾張旭市)で生まれた。育ったのは隣の瀬戸市。現在、京都大学大学院経済学研究科および経済学部で教えるとともに、経営管理大学院経営研究センター長も務める。また、2015年からは京都大学生協の理事長にも就任した。社会をよくする仕事をしたいと、研究者になるか医者になるか悩み、研究者の道を選んだ。「医学研究者って道もあったよなと。今だったら、それが一番インパクトがあるんじゃないかと正直思いますね(笑)。」
 


2017年から2019年までJUONでは、「Panasonic NPOサポート ファンド」の助成を受け、組織基盤強化に取り組んできました。最初にパブリックリソース財団の組織診断を受けた後、3年にわたってコンサルタントを務めていただいたのが、京都大学教授の若林靖永さんです。助成期間の終わりを迎えるにあたって、若林先生にJUONへのアドバイスや期待について話していただきました。
 
 

現場の知識は現場の人が持っていて、どうしたらいいかという解決策も実は自分達のなかにある。


「最初に呼ばれて、皆さんにお伝えしようとホワイトボードに書いたことの一つは、プロセス・コンサルテーションっていうやつなんですよね。」

18年の20周年を迎える前にJUONでは、NPOとしての社会的な意義を見つめ直し、今後どのように進むべきなのかを検討すべく、PanasonicのNPO組織基盤強化のための助成金を申請しようと考えていた。この助成金は、必ず外部のコンサルタントに協力してもらうことが条件となっている。「より多くの人が活躍するための組織診断・組織基盤強化と中期計画の策定」というテーマで申請した事業は、助成をいただけることになった。非営利組織のマネジメントが専門の若林先生に17年の秋から理事会や常任理事会に参加していただくようになる。生協や大学生協に関わりが深い方でありながら、それまでJUONとは直接的な関係を持っていなかったということが、コンサルタントとして適任であったのだ。

「経営学者が厳格な科学主義で研究をすると、実務の現場から離れていく傾向があるんです。そこで、改めて実務とどう結ぶかという時に、際立った特徴のある関わりをした人がエドガー・シャイン先生なんですね。現場の知識っていうのは現場の人が持っていて、どうしたいかっていう思いも、そこにいる人達が持っている。つまり、どうしたらいいかという解決策も実は自分達のなかにあるんです。」

コンサルタントとクライアントが対等で、当事者が議論を丁寧に積み重ねていくプロセスのなかから、自ら解決策を見出す。このプロセス・コンサルテーションの手法を一貫して採用し、進行役を担っていただいた。

現在、NPO法人 教育のためのTOC日本支部の理事長も務めている。この組織は「教育のためのTOC」というクリティカルシンキングを普及推進している団体であるが、ここで行っている人を育てる仕組みは、JUONでも参考になるのではないかという。

「育つというのは、ひとつ一つ教えることとは限りません。そうではなくて、教えられる側から教える側、やる側に回ることなんですよ。最初は一参加者で参加して、次はグループリーダー的にサポート役を手伝って、次は講師として実際のレクチャーを担当する。ホップ、ステップ、ジャンプでやってみる。」

ホップではアシスタント、ステップでサブリーダー、そして、ジャンプではリーダーになって実際の企画を予算も含めてやってもらい、卒業。それ以降は継続しなくてよいが、続ける人が出てくる可能性もある。例えば、2年間スタッフとして頑張れば卒業証書をもらえるというような、研修プログラムとスタッフを一致させる仕組みがよいのではないかと提案してくれた。

コンサルタントとして、若林先生がもう一つ大切にしたことは、ピーター・F・ドラッカーの「非営利組織の自己評価手法」だ。ドラッカーは、社会をよくしていくためには民間企業が頑張ることが必要だと、経営コンサルタント行っていた。しかし、社会が健全に発展するためにはそれだけでは不十分であり、NPOの役割が決定的に重要である、にもかかわらずNPOにはマネジメントが欠けていて使命を発揮していないと、晩年、NPOの支援を始める。

「①使命とは何か、②顧客は誰か、③顧客が価値あるものと思うのは何か、④成功の基準、成果指標は何か、⑤計画は何かと、5つの問いについて、本当に頭を使ったと思うんですよ。一生懸命に表をつくってもらったり、ホワイトボードいっぱいに意見を出してもらったり、あのワークによって見えてきたことはたくさんあったなと。」

今年度6月の総会では、ミッション、ビジョンを見直した。また、それを基にして策定した中期計画には、成果基準を明記している。これまでのJUONには弱かった点だ。成果基準が明確であれば、やるべきことが明確になり、マネジメントができる。

最後に、これからのJUONに期待することを伺った。

「助成金をきっかけに、組織を変えていくことが大事だということが分かったのではないでしょうか。個々の事業を頑張ろう!だけまじめにやっていてもそんなには広がらない(笑)。各事業が発展するためにも、それを推進する組織のありようを変えていくというアプローチで、未来に向けて取り組んでもらえたらなと思います。」

 

  • 2018年2月4日第82回常任理事会でファシリテーターをする若林先生。

  • 2017年12月3日第81回常任理事会(拡大常任理事会)では、ドラッカーの自己評価手法も活用した。
 
池 大祐・鹿住 貴之
JUON NETWORK 2020年 第113号