JUONのあの人: 第10回 中嶋敏男さん

第10回 JUONのあの人
中嶋敏男さん

中嶋さんは1950年、岩手県宮古市に生まれた。「自分に鉈の使い方を教えてくれたのは母親。生まれ故郷の岩手では山で薪を集めるのは、女の仕事だった。だから自分も3歳のときから母親にくっついて山に行き薪を運んだり手伝っていたんだよ。」
 


今年で13期目となる「森林ボランティア青年リーダー養成講座in東京(以下リーダー講座)」。この講座で第1期から技術指導者としてご協力いただいているのが、中嶋敏男さん。JUONの関東での森づくり活動には、なくてはならない存在である中嶋さんは、リーダー講座の卒業生で構成されている東京ヤングジュオンの師匠としても、活動を支えて下さっています。
 
 

昔のやり方を継承したい。だから、あまり文明の力を使わないってのが俺のスタンスなんだよ。


「ある一定の年代になると子育ても終わってくるから、休みのときに何かしたいなってこともあった。自分が子どもだったときにいろいろと遊んだものを取り戻したいと思ったんだな。」

岩手県宮古市出身の中嶋さんは、子どもの頃から薪集めなど親の手伝いで、よく森に入っていたという。上京してから、本格的に森林ボランティアとして森に関わるようになって17年。そんな中嶋さんも一番初めは、東京都の奥多摩都民の森(体験の森)のプログラムに参加した。

「もう現場の作業は、自己流では分かっていたけども、基本的なものとか、東北と関東の土地柄の違いとかもあるから、その違いを勉強しようかなってことで参加したわけ。」

当時は、自分たちが楽しむために、ボランティアとして安全に作業を行うための技術を学んでいた。そして、体験の森の修了生十数名で「奥多摩・山しごとの会」を結成。

「実際に勉強したのは、奥多摩・山しごとの会のとき。JUONのリーダー講座みたいなもんだったよ。自分たちがよそに行って、指導できるように5年なら5年、みっちり勉強しましょうってスタンスで始まった。まあ、それがいい結果になっているかな。安全に対しても、何に対しても。やればいいってことではなく、なぜそうなるのかを考えながらやっていた。」

奥多摩・山しごとの会で、技術・安全対策などを磨きながら、指導者として少しずつ様々な現場に出向くようになっていく。

そんな中で、中嶋さんとJUONが知り合うきっかけとなったのが、1998年に行われたサンワみどり基金(現・三菱UFJ環境財団)主催の「水源の森 自然ふれあい楽習」。

「本来私が指導で行くところではなかったんだけども、仲間の都合が悪くなって、たまたまバトンタッチで指導に行った。そのときにJUONの事務局が今後同じような活動をしたいってことで視察に来ていたんだよ。」

これが、中嶋さんとJUONの初めての出会いだ。もし、中嶋さんがピンチヒッターで来ていなければ、出会いはなかったかもしれない。

そんな運命的な出会いをきっかけに、翌年の99年から始まったリーダー講座の講師として、本格的にJUONに関わっていただくことになる。しかし、指導者として関わっていく中で、戸惑いもあったようだ。

「一番は、世代のギャップかな。物事や言っていることの意味が、伝わらない。それに非常に悩んだ。我々の世代では日常当たり前にやっていたことが、世代の違い、生活や育った環境が違うから、作業のやり方や説明が非常に難しい。今はもっともっと難しいけど(笑)。」

「まだ携帯もパソコンもない時代は、講座でも何でも自分の興味があれば、とにかく現場に行かなきゃいけなかったのよ。現場に行くとさ、『なるほど、こうやってやるんだ』ってことが分かるわけ。だけど今はさ、知識や情報は黙っていても入ってくる。名前は知っている。やり方も知っている。でも、一度もやったことがない。だから教える方としては難しい。」

長年リーダー講座の指導者として関わってきた中嶋さんだからこそ感じる苦悩があるようだ。だが、田舎では考えられないこともあったという。

「その当時から思ったことは、若い人がすごく熱意をもっているってこと。都会ってすごいなと。暑い中、草刈りとか大変な作業じゃない。そういうことをやろうという人がいるのが、やっぱり東京なんだなと思った。」

JUONには、不思議と何かを学ぼうとする人がたくさん集まっていたという。

「ギャップはあるけれども、昔のやり方を継承したい。だからあまり文明の力を使わないってのが、俺のスタンスなんだよ。JUONでできることは講義ではない。基本的には現場で教える。まあ今でもそれを一貫してやっているだけよ。」

第1期から10年以上指導を続けて下さっている中嶋さん。最近、一つの区切りの時期ではないかと感じている。次は、若い世代を直接育てるよりも、その指導者を育てたいという。

「それと、これからは、実践している人間と関わりたいな。リーダー講座を卒業して、他のところで実際に活動している人間とかね。俺は、『森林の楽校』にリーダー講座の卒業生が、必ず一人ずつ参加するってぐらいでないといけないと思っているんだよ。今やっている『森林の楽校』に卒業生が、一人は主要メンバーかスタッフに入っているならさ、年に2〜3ヶ所は、どこかの『森林の楽校』に行ってみて、いろんなアドバイスもしてみたいな。」
 

  • 2002年秋から東京ヤングジュオンの活動拠点となっている「鳩ノ巣フィールド」(東京都奥多摩町)。毎年、ここで「森林ボランティア青年リーダー養成講座in東京」の実習を実施。毎月第3日曜日には「多摩の森・大自然塾」も開催されている。

  • 2010年11月27日(土)〜28日(日)に行われた「第12期森林ボランティア青年リーダー養成講座in東京」の第2回目で、参加者に道具の使い方をレクチャーする中嶋さん。
 
鹿住 貴之・柳井 賢太
JUON NETWORK 2011年 第80号