JUONのあの人: 第9回 五島章夫さん

第9回 JUONのあの人
五島章夫さん

日本林業調査会発行『林政ニュース』の取材を受ける五島章夫さん。五島さんは1955年、徳島県北西部の池田町(現・三好市、2006年に山城町・井川町など三好郡内の5町村と合併)に生まれた。「周りが山なので、日本の木材を使わないと山が荒れ放題になることは、親の代から自然と教え込まれてきました。」
 


知的障害者施設で製造した国産間伐材製の割り箸を大学生協の食堂を中心に使ってもらい、都市と山村の「かけはし」を目指す「樹恩割り箸」。様々な取り組みの中でも、特にJUONならではと言える活動です。製造施設も昨年から全国7ヶ所に増えました。最初に樹恩割り箸の製造を始めた徳島県三好市のセルプ箸蔵で施設長を務める五島章夫さんにお話を聞きました。
 
 

確実なものにして全国に広げていきたいという強い思いがありました。


「自分にとって一番不安だったのは、障害を持っている方にどのように接したらいいか。専門の学校を出ているわけでもないんでね。先輩に教わってノウハウを叩き込まれながら、気がついたら何十年か経っていたという感じですね。」

最初から福祉の道を志していたわけではないという五島さん。五島さんと福祉の仕事を結びつけたのは故郷の自然だった。

「学生時代にちょっと都会にあこがれて、大阪の大学で経済を学びました。でも、一生を過ごすなら自然に囲まれたところ…という思いもずっとあって。卒業後、地元で何かできる仕事を探した時に、池田博愛会という福祉の仕事に出会ったんです。」

社会福祉法人池田博愛会は、1963年に知的障害を持つ子どもの学習の場、池田学園から始った。再来年で50周年。現在は、障害者や高齢者施設など、350人余りの職員を抱えている。

そんな池田博愛会が割り箸の製造に携わるようになったのは98年。95年に起きた阪神・淡路大震災における間伐材製の仮設学生寮建設によって生まれた、三好郡(現・三好市)の林業関係者と大学生協のつながりがきっかけだった。旧・山城町森林組合がログハウス生産の余った材を利用し大学生協食堂向けの割り箸を作ることになり、最終加工と不良品の選別、発送を池田博愛会箸蔵山荘が担うことになった。しかし、なかなか量産体制に入れず、価格の面でもJUONが1膳につき50銭を負担することで成り立っていた。

2001年、池田博愛会は通所授産施設セルプ箸蔵を立ち上げ、香川県の割り箸工場から機械を譲りうけ、割り箸の製造から販売まで全てを引き受けることになった。そこで、量産体制の確立を目指す担当者として、箸蔵山荘で木工などを教えていて、物づくりが好きだった五島さんに白羽の矢が立ったのだ。

「製造ラインは機械を提供してくれた香川の横関さんから教わることができましたが、材料をどうやって手に入れるかに苦労しました。割り箸の担当になることに抵抗はなかったですよ。嬉しかったですね。確実なものにして全国に広げていきたいという強い思いがありました。」

現在は、製材工場8社からスギ・ヒノキの背板(材木から板や角材をひき割った残りの板)を原料として購入。知的障害を持った53名の利用者が製造に携わっている。最も注文が多かった08年度で988万1000膳を出荷した。そのうち95%が大学生協向けだ。

「JUONは非常に大きな役割を果たしてくれたと思います。利用者がこんなにイキイキと働ける場を提供してくれた。これは、すごいことだなと思います。」

04年に埼玉、08年に群馬、昨年は福島・茨城・東京・広島の知的障害者施設でも製造が始まった。昨年の総会から、7つの施設の職員が一堂に会す「割り箸サミット」も開催している。

「今までは仲間がいなかったから、相談ができませんでした。木はどんなふうに使っているか、販売先をどうやって開拓しているかとかね。7つになると情報の共有ができるようになって気持ちに余裕ができましたね。」

しかし、中国産との価格差や品質の統一など課題は残る。セルプ箸蔵では、これまで赤字を「施設会計」で補填していたが、障害者自立支援法が施行された影響で補填が困難になり、09年、大学生協に50銭の値上げをお願いした。

日本で1年間に消費される190億膳の割り箸の98%中を占める中国産の割り箸は50銭〜1円。一方、樹恩割り箸は、1膳あたり裸箸が約2円50銭、箸袋入りの完封箸が3円50銭。中国産と比較すると2倍以上にもなるが、森林や障害者の働く場を支えるためには必要な価格。国産材割り箸の使用先を広げるために、作る側はその意義を伝える努力をしていかなければならない。

「一般の方に一番わかっていただけるのは、現場の見学でしょうね。割り箸はこうやって作っているんだ、そこに障害を持っている方がこうやって携わってるんだ、というのが目で見てわかる。理屈じゃないんですよね。」

セルプ箸蔵では、東日本大震災の支援として、3月18日に5万膳の割り箸を宮城に送った。樹恩割り箸が被災地への「かけはし」にもなることを願い、メッセージ入りの箸袋も製造している。

「被災直後は水が使えないだろうし、使ってすぐに処分できる割り箸が便利ではないかと思いました。5万膳では十分な数ではないですが、もっともっと協力できればと思います。お互い手をとりあって、1日も早い復興ができるように取り組んでいきましょう。」
 

  • 【中】大学生協の東日本大震災募金を呼びかける箸袋。
    【上】被災地へのメッセージが入った箸袋は、10万膳を目標に製造中。箸代は吉野川(三好)流域林業活性化センター、県職員労働組合三好支部・吉野川支部、JUON NETWORKが共同で賄う。

  • 割り箸工場を見学に来た学生に説明をする五島さん。
 
鹿住 貴之・須田 直菜
JUON NETWORK 2011年 第79号