JUONのあの人: 第6回 平野三智さん

第6回 JUONのあの人
平野三智さん

1971年生まれのみっちゃんは、四万十楽舎がある高知県旧西土佐村の隣、旧中村市で育った(2005年に合併して四万十市に)。「中村は西土佐より街って感じ。周りが田んぼで、ちっちゃい時は川よりも用水路で遊ぶことが多かった。」
 


2004年に始まって以来の快挙!今年3月に行なわれた「四万十川 森林の楽校」は、これまで2〜3名だった参加者が12名も集まりました。その受け入れ先である四万十楽舎の「顔」が、平野三智さん。四万十楽舎を訪れた人は、誰もが「みっちゃん」の名前を口にします。決まって、笑いながら…!そんな、みっちゃんをこの連載で紹介しないわけにはいきません(笑)。
 
 

おんちゃん達、ニコニコやったもんね。嬉しかった、すごく嬉しかったなぁ。


「ほんまにほんまに、まだまだ長生きしてよ〜っ。たのむでぇ。」

地元のおんちゃん(おじちゃん)達に声をかける、みっちゃん。冗談っぽく笑いながらも真剣な、みっちゃんの声が耳に残る。

今年の「四万十川 森林の楽校」の目玉は、山を生業に生きてきた西土佐・奥屋内地区のおんちゃん達から教わる山仕事。キンマという木のソリで重い材木を運ぶ昔ながらの方法を体験したり、夜にはおばちゃん達の手料理を囲んで交流したり、四万十の自然と人の魅力を満喫した3日間。こんなプログラムを「森林の楽校」として提供できるのも、四万十楽舎があってのこと。

87年に廃校になった旧西土佐村中半小学校が、自然体験・宿泊施設として再スタートしたのは、99年。みっちゃんの高校時代の恩師で、西土佐の高校に赴任していたこともある山下正寿さんが「独立採算でやる」と村を説得し、社団法人「西土佐環境・文化センター四万十楽舎」を立ち上げた。JOUNとは、同じ廃校活用をテーマに活動する団体として設立準備の頃からつながりがあり、98年に富山県で行なった廃校サミットには、パネリストとして来ていただいたこともあった。

当時、東京の大学で教員免許を取り、高知に戻って小学校の臨時教員をしていたみっちゃん。山下さんから四万十楽舎のスタッフを…と声をかけられ、迷いは無かったのだろうか?

「あーいいよ、やるやるって感じ(笑)。何も見えてなかった。西土佐がどんなところかも知らなかったから車でぐるぐるまわって、地域の人と会って、怒られて。そんなことの繰り返し。」

「森林の楽校」の3日間だけでも、立ち寄った先々で「四万十楽舎のみっちゃん」が馴染んでいるのを感じたが、そうなるまでは予想以上に長い道のりがあった。

「11年前に楽舎ができた頃は、『四万十楽舎です』って言っても、『どこ?』みたいな。何をやっているかわかんないとか、スタッフは村がお金を出して雇っているとか、誤解もあった。」

地域の人達に理解してもらえるまで「7年かかったよ」というのが、みっちゃんの実感。「石の上にも3年」の倍以上、長い…!

「今が楽しい。地域の人にわかってもらえない時は、しんどかった。楽舎スタッフみんなが西土佐に移り住んで、子どもを産んで、保育園・小学校に入ってくらいで、やっと地域とのつながりができてきた。これからが、本当にやりたいことができる時だという気がする。」

もう一つ予想外だったのは、みっちゃんの子ども時代。さぞかしお転婆な女の子だったのだろうと聞いてみると…。

「いやいや、超泣き虫(笑)。小学校5年生の反抗期で性格が変わった。大学で東京に出た時が2回目の変化。東京で色んな人と出会う中で、辛い経験を乗り越えてきた人達がたくさんいて、逆に家族・友達・先生、何もかも恵まれ育った自分が恥ずかしいような。周りから『言ってることが夢物語みたい』って言われて、えーって思った。でも、四万十を出て、そういう経験をしたことで幅を持てたと思う。」

百年に一度の大不況も吹き飛ばすほどパワフルなみっちゃんも、地域にすっかり溶け込んで見える四万十楽舎も、迷って、悩んで、ジタバタもがいて辿り着いた姿。そのジタバタは今も続いている。

溶け込んだといっても、その地域の現実は厳しい。「森林の楽校」でお世話になった奥屋内では、10年前に小学校が休校になっている。四万十川の支流、黒尊川流域の奥屋内地区には、かつて営林署の事業所があり、林業のために移り住む人でにぎわった。小学校の児童数も最盛期には167名だったが、事業所の撤退とともに急激に過疎化が進んだ。

手入れされた田んぼや家がつくり出すのどかな風景、おんちゃん達の森林の技、おばちゃん達の手料理の味。子どもがいないこの地域の、10年、20年後を思うと、感動の中にも、悲しい気持ちが混じってしまう。でも…。

「おんちゃん達、めちゃめちゃ喜んでたね。やっぱねぇ、若い人に飢えてんだよ(笑)。ニコニコやったもんね。嬉しかった、すごく嬉しかったなぁ。対地元とか対お客さんとかっていうのは日常でもけっこうあるけど、今回みたいに両方をつなぐことで喜んでもらえた時は本当に嬉しい。JUONが人を集めてくれて、楽舎ができることを一緒に提供するって形はすごくありがたい。」

「森林の楽校」を振り返る、みっちゃんの言葉に、悲しいなんてまだ早い!喜んだり、悩んだり、みっちゃんと一緒にジタバタしよう!と思った。

 

  • 四万十川にかかる茅生大橋を背にした四万十楽舎。校舎に泊まり、カヌーツーリング、手作り筏での川下り、森林散策、星空観察など、四万十の自然をまるごと体験できる。

  • みっちゃんは2児の母。調理、事務、カヌーの指導と忙しい中での子育ては、大らかな西土佐の自然と人に助けられている。
 
須田 直菜・日吉 沙絵子
JUON NETWORK 2010年 第75号