JUONのあの人: 第3回 本間航介さん

第3回 JUONのあの人
本間航介さん

本間先生のご両親は新潟市の出身。父親が転勤族で、先生は1968年札幌生まれ。「幼稚園は千葉、小中高は東京、大学が千葉大、大学院が京大。非常勤で北大に勤めて、今は新大。ぐちゃぐちゃに動いてる。だけど、本間家の大元は佐渡なの。縁というか因縁だよね。」
 


新潟大学農学部フィールド科学教育研究センター准教授で、トキ野生復帰プロジェクトの発起人、本間航介さん。トキのエサ場にするため、02年から一緒に手入れをしてきた棚田跡地「キセン城」は、来春第3回目の放鳥の候補地になっています。JUONが関わる意味を今一度見つめ直そうと、「トキの島 森林の楽校」でお話を聞きました。
 
 

都市部の人達と環境保全の現場をつなぐパイプが、どんどん太くなっていってほしい。


「単にトキが飛んだだけであって、まだ始まったばかり。都市の人達と環境保全の現場との関係がすごい気になるんだよね。トキってものを、東京とか都市部の人達は、自分からは遠いものだと思っちゃう。でも、5年10年経って、ある程度トキが飛んで安定すると、環境省は手を引いていくわけです。けども、一回里山でトキを飛ばしたら、未来永劫手入れしないと、またいなくなっちゃう。で、その未来永劫里山を手入れするのは誰なんだって、そこの答えが出てないのね。今のままだと、多分その負担を地元だけでは負えないって話で、終わりになってしまう。」昨年9月の試験放鳥から1年、感想を尋ねてみると、返ってきたのは淡々と先を見据えた答え。

トキは「里山の鳥」。エサは棚田のドジョウやサワガニ、松林や雑木林に巣をつくる。そのトキを野生に戻すには、人が放棄して荒れた里山を再生することが必要だ。日本全体が里山の大切さを理解し、人手や資金の協力関係を都市と地方の間に築かなければ、現代の里山は成り立たない。トキ野生復帰は佐渡だけの問題でなく、里山再生や循環型社会のシンボルとして、大きく捉えてこそ意味がある。地元住民に、都市から訪れた人に、先生はトキ野生復帰とは何かを語ってきた。

先生の専門は森林生態学。豪雪、高標高、厳しい場所で森が維持されるメカニズムを研究していた先生は、なぜトキ野生復帰にこれだけのモチベーションで携わることになったのか。

「京都の学生時代、里山研究会なるものに入って、丘陵地の宅地開発、湿地にガスタンク基地をつくる計画なんかの影響を調査してたわけ。里山という環境で生物がぐちゃぐちゃって集まって生活している、その面白さがわかった。」

環境庁によって「レッドデータブック」が作られたのもその頃。里山が多様な生物を育んでおり、中には絶滅が危惧される動植物もたくさんいるとわかり、その価値が急速に認知された時期だった。

2000年、先生は新潟大学農学部付属演習林助手として佐渡に赴任。

「一番印象が強かったのは、佐渡の里山が関西と非常に似ていること。京都の里山研究会で考えていたことが、そのままフラッシュバックした。佐渡は里山が面白い。」

その年の冬、環境省のプロジェクトとして「トキの野生復帰に向けた佐渡の地域環境づくり」が始まり、先生は現地在住の専門家として関わることに。

「野生復帰の可能性を調査したんだけど、棚田とか里山を放棄して30年近く経っているから、トキがエサ場やねぐらとしていた場所がほとんど使えない状況になっていたわけ。でも、行政ベースの政策は意思決定に時間がかかる。自分の問題意識も100パーセントは反映されないわけですよ。」

「なんか自分でやらないかんな、と思っていた時、キセン城の話があって行ってみた。コナラの葉っぱが落ちて地面に雪が積もって、昔の棚田の風景そのままに見えた。目の前に300枚の棚田が、うわんって出てきて、そこにトキが飛んでいたのが強烈にイメージできたんだよね。」

キセン城のようなかつてのエサ場が使えるかどうかが、トキ野生復帰の生命線になる。住民自らの手で里山を再生していくためにも具体的なモデルを示すことが必要だ。02年、先生はキセン城の棚田を復元する作業を始める。記念すべき最初の作業は、JUONの「森林の楽校」として行われた。その後、大学の一教官としての活動は、03年に新潟大学の地域貢献事業「新潟大学トキ野生復帰プロジェクト(現:超域朱鷺プロジェクト)」へと発展した。

佐渡で「森林の楽校」が始まったのは2000年。当時、JUON理事で、佐渡の廃校活用施設・鳥越文庫で地域づくりの活動をしていた光井高明さんが、先生を訪ねたのきっかけだ。キセン城が見つかる前は、新大の演習林で行われていた。9年間の参加者は延べ250名ほど。

「都市部の人で、自分達にできることがないかって思っている人は結構たくさんいる。そういう人達と環境保全の現場をつなぐパイプがまだ細いわけですよ。もっと、どんどん太くなっていってほしい。そのひとつのパイプとしてJUONが機能してくれたらすごくうれしい。JUONの参加者は、森林で作業したり、観察したりする時のモチベーションが高いんですよ。リピーターも多い。5年とか7年とか続けてきてくれる人がいる。慣れている人が増えて、作業が非常にスムーズに進みます。他のNPOとの関わりもたくさんあるけど、一回きりで満足して帰っちゃう人達がほとんど。期待するのはとにかく継続してやるということ。10年やってきて、波及効果がいろんなところに出ている。それを変えずに続けるというのが一番大事なんだと思う。」

 

  • 2009年10月10日(土)〜12日(月・祝)に行われた「トキの島 森林の楽校」で、参加者に間伐のやり方をレクチャーする本間先生。

  • 2002年から新潟大学と協力して、トキのえさ場づくりを行っているキセン城で、作業後に記念撮影。
 
須田 直菜・田中 みと
JUON NETWORK 2009年 第72号