JUONのあの人: 第36回 足本裕子さん

第36回 JUONのあの人
足本裕子さん

足本さんは、福岡県福岡市で生まれた。実家が京都だった父の影響を受け、幼少時代からずっと歴史好き。親の転勤で転校を繰り返していたためか、あちこち行くことが好きになった。JUON設立の翌年に東京都小平市で発足した森林を楽しむ会で代表を務める。「小学生から来ていた女の子が学生になり、会のおじさん達が一生懸命チェーンソーを教えたんだけど、今は宮崎で林業をやってる。すごく嬉しい。」
 


今年で設立20周年を迎えるJUON。設立当初から役員を続けている方が5名おり、その一人が足本裕子さんです。現在は、一般社団法人文化遺産を未来につなぐ森づくり会議の専務理事であり、JUON初代事務局長の足本さんに、設立当時のことや期待、また、取り組んできた活動についてお話を伺いました。
 
 

木を使いたいと思ってもらうためにどんな手伝いができるのかということを、学生と一緒に考えてほしい。


「トントン拍子に話が進んで、JUONの事務局長になった。会社から出向という形で始めて、おもしろくてハマりましたよね。」

足本さんはJUONが設立される前、小学校のPTA連合会(東京都小平市)の会長などを経て、建築会社で図面を描く仕事をしていた。しかし、会社に泊まり込んで夜通し作業をするなどの過労がたたり、体を壊してしまう。それを受け、これまでと違う日本の森や木の状況を調べる仕事をするよう社長から言われる。これが、現在まで長いつき合いとなる森との運命的な出会いだった。

その後、いくつもの県に電話をかけて担当者から森のことや林業について話を聞きながら、森林組合を回り始める。そのような時期に参加した徳島のシンポジウムに、当時全国大学生活協同組合連合会の常務理事であった小林正美さん(JUON副会長)が登壇していた。終了後に誘われて出席した慰労会で、小林さんと知り合い、後日JUONを立ち上げるので、何か手伝ってくれないか、と声をかけられる。簡単なお手伝いくらいならできるだろうと、二つ返事で快諾したが、最終的に事務局に引き抜かれることになった。

JUON事務局で1年、その後、JUONもネットワークに加わっている森づくりフォーラムへ移り、2年ほど事務局として働く。

「奈良の人達と話すたびに、文化財の神社仏閣に使う大きな木材がないよ、なくなるよ、と聞いていて、ずっと気になっていて。でも、事務局をやると、自分の思い通りのことができないと気づいたんです。」

歴史が好きで、学生時代から、古代史ゼミの先生と、夏の4日間だけ開かれる法隆寺の夏季大学に通っていた足本さんは、森づくりフォーラムを辞めた後、最も関心のあった活動を始める。「200年先の文化財補修用材確保のための有識者会議の開催」という内容で企画書を書き上げ、国土緑化推進機構「緑と水の森林基金」に個人で申請。見事に採択された。

会議の開催にあたり、法隆寺の管長さんのご縁で会の柱となる先生とお会いし、更に紹介された20人もの有識者の方々にお会いし、賛同していただいたと言う。そして、2回目の会議となる翌02年に、「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」を立ち上げた。昨年には法人化し、改称している。

設立してからは、文化庁側、林野庁側の委員会を毎月交互に実施し、途中何度もすり合わせながら5年ほどかけて、「文化遺産を未来につなぐ森づくりのための提言」が作られた。しかし、世の中は簡単には変わらなかったと、足本さんは振り返る。

そこで、10年前に「文化材創造プロジェクト」を始めた。森林所有者の方々が自発的に、長伐期施業を目指している山の一部を、将来、文化財の修理などに提供できるような森として維持・育成していくことを登録してもらう制度で、現在の活動の柱となっている。今までに50人ほどが登録しているそうだ。

ほかにも、設立初期から普及啓発のためのシンポジウム、文化財補修や林業現場の見学会、近年では若い世代の林業家が宮大工を訪ねる聞き取り調査などを実施する。

「ここまで来てハッと気がついたら、山の人たちが代替わりしている。親の世代は心を寄せてくれなかったのが、子の代になったら、『いいですね、やりましょう』と言ってくれて嬉しいなあと。ただ、反面、親から子に何も伝わってなかった。」

提言を出すまでの議論を、また若い世代にやってもらうことが課題だと言う。

最後に、JUONへの期待を伺った。

「やっぱりJUONは若者よね。もっと木の素晴らしさを分かってほしい。感じてほしい。木を使いたいと思ってもらうためにJUONはどんな手伝いができるのかということを、学生と一緒に考えてほしい。何ヶ月か山仕事を手伝えば、建築材料のなかで、あれほど手間暇と愛情をかけて育てられたのは、木材だけって分かるから。」

そして、設立当初に思いを馳せた。

「初代会長の故・大内力さんの『森林は、すべての生命の源泉であり、あらゆる文化の土壌である』というのは、すごい言葉。水がなければみんな生きていけないし、その元が森林。その人の生き方までもが文化という言葉のなかに込められていると思う。」

 

  • 2017年10月22日第68回理事会で、組織基盤強化について議論している際の足本さん。

  • 2000年6月3日第2回総会で、「ちくさ宣言」を読み上げる足本さん。
 
鹿住 貴之・佐々木 俊宙
JUON NETWORK 2018年 第106号