JUONのあの人: 第27回 五十川商司さん

第27回 JUONのあの人
五十川商司さん

五十川さんは1950年、長崎県長崎市に生まれた。子どもの頃は自然のなかで遊んでいた。関東の大学を卒業して、2年ほど写真屋で販売の仕事をした後、スペインのバルセロナに部屋を借り、日本と往復しながら6年ほど暮らす。日本に戻ってからは通訳の仕事や長崎で写真撮影の仕事をした。子育てが終わりそうな頃から、式見での活動に関わるようになる。「里山整備や工作が好きというよりも、道具フェチ。写真の仕事もカメラが好きだったから。」
 


長崎県長崎市において、毎年11月に大学生協九州ブロックとの共催で実施する「つばきの里 森林の楽校」。それまで、長崎県雲仙市で行っていましたが、2011年から、この場所で開催することになりました。現地の受け入れ団体ノマドの副会長である五十川商司さんに、活動の経緯やJUONとの関わり、今後の思いについてお聞きしました。
 
 

まずは自分で考えて、実際作業をしてみて、失敗して、分かってもらう。想像力を働かせることが大切。


「地域おこしの基本はヨソモノ、バカモノ、ワカモノじゃないですか。私はヨソモノだったのです。」

五十川さんが、長崎市式見地区の地域組織である四季美に関わるようになったのは、ノマドの会長である田平直文さんとのつながりから。若い頃スペインで暮らし、日本に戻ってきた五十川さんは、長崎外国語短期大学(現長崎外国語大学)のスペイン語講座に通う。そこで、世界中をバイクで旅していた田平さんと出会い、つき合いが始まった。結婚を機に、式見地区に住んだ田平さんから、10年近く前に地域活性化について何かやりたいとの相談を受けたのだった。

いろいろと話を進めるうちに、かつて地域の特産だった「椿油」を製造して売ってみようということになる。

「式見牧場の跡地にできた『あぐりの丘(長崎市が運営する公園)』には、白い花が咲くサザンカの木があって、実もたくさんとれるので、採らして下さいと話しに行ったのです。あぐりの丘も、来園者が減っていたので、そのうち、イベントみたいなことをできませんか?って、あぐりの丘から提案があり、それで昔ながらの方法で、姫かてし(サザンカ)の油しぼりのイベントを始めたのです。」

「つばきの里 森林の楽校」でも、3年間は四季美の皆さんによる油しぼり体験を行った。しかし、もっと様々な活動をしたいと思っていた五十川さんは、話は出ても、なかなか活動にならないことが多かったため、ノマドという新しい団体を立ち上げる。市のサポートで進めていた里山整備を継続するためにも、必要なことだった。

ノマドでは、里山整備の他にも、あぐりの丘の来園者向けに、流星観察会、日光写真、竹細工体験、虫カゴ作り、門松作りなど、イベントを月2、3回ほど行っている。

「間伐材を使った工作とか、循環型でやれるのがいい。それと、できる限り簡単なことはしたくない。『えらい複雑・大変』というのをやりたいのですよ。リピーターで来てもらい、道具も買って自分でやってみたい、というのをやりたい。今年は一晩泊まり込んでの炭焼き、間伐材を使ったシーカヤックづくりをやりたいと思ってます。」

長崎県内では、それまでの5年間、「雲仙の麓 森林の楽校」を行っていたが、開催が難しくなる。その際に、長崎ウエスレヤン大学教授の佐藤快信さん(JUON理事)を通じて、式見地区で森林の楽校を受け入れていただけることになった。

今回の森林の楽校では、指導者が最初に木の切り方を教えるではなく、自分で考えてからやってみる、というスタイルにこだわった。

「森林の楽校に参加する学生は自分の意思で参加しているので、好奇心があって関心も高いし、意欲のある子が多い。若い子が言う意見はまだまだ青いけど、まずは自分で考えて、実際作業をしてみて、失敗して、分かってもらうことが大事なんじゃないかな。最近はテレビとかを見て知った気になっているけど、本当の勉強は現場で学ぶことだよね。これからのマニュアル通りにいかない世の中、想像力を働かせることが大切。」

師匠に教えてもらうよりも、自分の好奇心によって一人でやることが好きだという五十川さんらしい。

今後の森林の楽校やJUONに期待することを伺った。

「学生たちがコアになって関わり続けてもらえるようにしたい。正直言って戦力にはならないけど、彼らがやりたいことを私がサポートできれば。JUONがその組織づくりに関わってもらえばいい。それと、セルロースやバイオ燃料の研究とか大学にも期待しているから、JUONにアプローチしてもらえればいいな。」

最後に、今最も関心のあることについて話して下さった。

「地域の資源をお金に変える知恵が必要だけど、小商いが面白いと思います。それが盛んなアメリカのポートランドに行ってみたい。個人経営の小さいお店が沢山あって面白そう。観光地である長崎はそういうことに向いていると思ってます。なぜなら今の観光は見るだけに留まらなくて、ものを買って帰る楽しみもあるから。ものづくりで長崎もうまくやっていければ面白いと思う。」


 

  • 今年度の「つばきの里 森林の楽校」では、安全に配慮しながら、参加者自らが考えて作業することを大切にした。

  • 2012年11月「つばきの里 森林の楽校」で、しぼった椿油を集める五十川さん。
 
小川 結衣・鹿住 貴之
JUON NETWORK 2016年 第97号