JUONのあの人: 第57回 増田孝夫さん

第57回 JUONのあの人
増田孝夫さん

増田さんは、1954年に香川県仲多度郡満濃町(現・まんのう町)に生まれた。2人兄弟の長男。多度津工業高等学校(現・多度津高等学校)を卒業後、大阪の設計事務所に就職する。約10年働いた後、地元にUターン。95年に独立し設計事務所「森風舎」を立ち上げた。2006年からフォレスターズかがわの活動に参加し、会長も務めた後、今は事務局を担当している。アウトドアが大好きで、大阪時代には仕事そっちのけで登山三昧。「結構仕事を休んでましたね。ようクビにならんかった(笑)。
 


「里山・森林ボランティア入門講座in四国」の第1期からお世話になっているNPO法人フォレスターズかがわ。その窓口となっていただいているのが、事務局の増田孝夫さんです。「さぬきの森 森林の楽校」のお手伝いもお願いしている、増田さんに、これまでの歩みや森についての思いを話していただきました。
 
 

森は未来からの、預かりもの。


「自然は豊富でしたね。もろ里山で、男の子はみんな片手にはナイフを持って。そういう時代でしたね。」

香川県満濃町(現・まんのう町)で生まれ育った増田さん。祖父の世代は国策で満州に行き、戦争が終わってから元の地域に帰って来たそうだ。家の周りには畑があり、父親は勤め仕事をしながら農業も行っていた。

「物を作ったり、絵を描いたりするのが好きだったので、将来どうしようかっていう時に、まあ何となくといったところですかね。」

高校は地元の工業高校の建築科に進む。卒業後は、親元を離れたいという思いもあり、大阪へ。親類も多く、就職の世話をしてもらい、設計事務所で働くことになった。

その頃、仕事以上にのめり込んだのは登山だった。

「毎週土曜日はザックを背負って事務所に行って、その夜は山のゲレンデでトレーニングをして過ごす。そして、日曜日の夜に帰ってくるという、毎週その繰り返しでしたね。」

関西の都会で骨を埋める意識はなく、長男ということもあり、将来的にいつかは地元に戻ろうと考えていた。約10年大阪で働いた後、様々なタイミングが重なりUターンで実家に戻る。

仕事は、高校時代の恩師の紹介で、ちょうど新しく開設される設計事務所で働けることになった。14年間勤め、そして、1995年に独立。事務所の名前を「森風舎(しんぷうしゃ)」と名づけた。

「森は、大地、地球という位置づけ。風は、宇宙も含めた空間と解釈してます。舎には、仮の宿という言葉の意味もあって、今私達が生きている森とか地球とか空間っていうのは、自分達だけのもんじゃないよ、森は未来からの預かりものですよと。」

それまでは、主に鉄筋、鉄骨、コンクリートを中心に扱ってきたが、木に関心があったこともあり、木造にシフトした。

そのようななか、2000年に「近くの山の木で家をつくる運動宣言」が出る。国産材を使った家づくりの全国的なムーブメントが起こり、香川でも、木と家の会ができた。増田さんも、まさにこれだと参画を決める。

「中学生ぐらいまでは、家で桃を作ってたんですが、時代も変わって止めた後にね、ヒノキを植えたんですよ。父親が精魂こめて木を育てて。その木も大きくなり、何とかせんといかんだろうと。」

林業や森林についてしっかりと学びたいという気持ちを、とても強く持っていたという。

折しも、香川県が森林ボランティアの育成を目的に、年間を通したカリキュラムの「フォレスターズスクール」を実施していた。増田さんは、06年に受講。当時は森林ボランティア団体がたくさん生まれた時期だったが、講座の卒業生により05年に結成されたフォレスターズかがわの代表の呼びかけに応じ、活動に参加することにした。

後に2代目会長に就任するが、木と家の会と通して出会った長本朝子さん(22年8月1日発行・会誌123号「JUONのあの人」)からJUONを紹介される。初めて参加したのは、チェーンソー講習会として実施した07年の「四国のへそ 森林の楽校」(徳島)だった。そして、森林の楽校で唯一親子を主な対象としている「さぬきの森 森林の楽校」(香川)の手伝いもするようになる。

「最初は、どんなことしちょるんやいうところがあって。子どもやファミリー層を集めてイベントを組み立てるスキルを、見せてもらったところがありますね。」

フォレスターズかがわでも、子ども達に向けた活動を数多く実施している。自分の子どもの頃とは時代が変わった今、自然体験の場を作ることは大人の役割だと考えているのだ。

しかし、今の不自由な時代を憂いてもいる。

「公園内の森づくりにも関わっているんですが、もう不自由なんですよね。規制、決まり、まずダメダメから始まる(笑)。日本は禁止社会。もう少し大らかになれば、楽に生きられるんじゃないかな。」

JUONの活動では、「森林ボランティア青年リーダー養成講座」という名称でスタートした17年から、「里山・森林ボランティア入門講座in四国」の受け入れもお願いしている。

「林業のプロじゃない我々の立ち位置は何ぞやということを考えるわけですよね。ファンを増やすというか、林業・森林に関わる人達の下支えになるという役割も持っているんじゃないかなと。」
 

  • 2022年10月8日「第6期里山・森林ボランティア入門講座in四国」第2回。毎年第2回の指導をお願いしている。

  • 2007年8月4日初めて参加した「四国のへそ 森林の楽校」の際の増田さん。
 
鹿住 貴之・鈴木 郁
JUON NETWORK 2023年 第127号