JUONのあの人: 第45回 小町隆夫さん

第45回 JUONのあの人
小町隆夫さん

小町さんは、1953年に東京都北多摩郡狛江町(現・狛江市)で生まれた。大学は工学部に入学し、校内にデジタル時計をトランジスタで仲間達と作成し楽しんだ。卒業後は、近くの会社に就職し、現在は取締役を務める。頼まれると断れない性格だという。「最初はお断りするんですけど、どうしてもと言われれば協力しましょうかと。去年くらいからはそれがいっぱいです(笑)」。
 


東京都奥多摩町において毎月第3日曜日に開催され、JUONが事務局を務める「多摩の森・大自然塾」。昨年度からその指導責任者となり、また、「森林ボランティア青年リーダー養成講座in東京」を中心的にサポートしていただくことになったのが、小町隆夫さんです。森づくりに関わるようになった経緯や思いについて、お話を聞きました。
 
 

種を蒔かなければ実は結ばない。いつかどこかで芽が出てくれるかもしれない。


「昔は人手として、田植え、刈り取り、餅つきだとかに兄弟が手伝ってた。親父について行って、いとこ同士でばあさんが作った昼飯を田んぼで食べていたという、まだまだのどかな場所でしたよ。」

小町さんの父親は、東京・狛江の昔から続く農家の三男。サラリーマンだったが、年に何度かは近くの実家の農業を手伝った。隣接する多摩川の岸辺は玉砂利で、泳げるほどのきれいさ。周りには田んぼや畑も多く、まだ下水が整備されていない当時、農家が堆肥作りに桶を担いで便所の汲み取りに来ていたそうだ。お礼に野菜をくれたことをかすかに覚えているという。炭焼き小屋や水車もあり、小学生の頃遊ぶのはいつも野外で、ナイフを持ち歩いては、弓矢などを作って遊んでいた。

「50歳を過ぎたくらいから、多摩川というものを意識し出した。ふと、こんないいものが隣にあるよねと。その時に昔のことも色々思い出しましたよ。」

大学の工学部を卒業後、小町さんは狛江に住み続けながら、近くにある企業で働いてきた。取り組めば何とかできる器用さや、協調することを好む性格からか、様々な部署を担当させられ、現在では取締役を務めている。

結婚して子どもが生まれてからは、友達家族ともよくキャンプに行った。しかし、当時は東京・奥多摩にはあまり行かなかったという。子どもが成長すると、仕事人間だけでは終わりたくないと、ボランティアにも興味を持ち始める。また、近くにある多摩川にあらためて関心を持ったのだ。

「こんなにいいものがあるのだから歩こうと。狛江から上流にどんどんどんどん歩いたんですよね。疲れたら電車で帰ってきて、次に挑戦する時は早朝電車でそこまで行って、そこからまた歩いて。最終的には笠取山まで登った。その後は、狛江から河口まで制覇して、やっぱり多摩川って素晴らしいなって。」

東京都の広報で「奥多摩都民の森」の山仕事入門講座の記事が目に留まったのは、ちょうどその頃だった。土曜日の年間12回の活動に通ううちにはまり、翌年、翌々年も参加。そして、スタッフから同じ奥多摩の鳩ノ巣で毎月第3日曜日に開催される「多摩の森・大自然塾」に誘われる。2010年のことだ。

「日曜日か・・・翌日仕事でつらいなとちょっと思いましたけど(笑)。でも、やり始めたら楽しかったですよ。色々教えていただけたし、その頃は、スタッフもヤングジュオンも大勢いたし。ロープワークとか教わったことも、被災地のボランティアで活かせる部分もありました。」

翌年の東日本大震災後は、数多くの被災地に幾度となくボランティアとして通った。最初は、被災地を見てみたいというちょっとした興味から石巻に行き、それ以来被災地復旧復興のお手伝いに、様々な地域で様々な活動を行うようになる。

大自然塾ではその後、スタッフとなり、スタッフが技術を高める場である「作業部会」にも積極的に参加する。そして、JUONの「森林ボランティア青年リーダー養成講座」も手伝っていただくようになった。昨年、中嶋敏男さん(11年11月1日発行・会誌80号「JUONのあの人」)が地元の岩手に帰ることになり、大自然塾でもリーダー講座でも後任を託された。

「大自然塾の指導責任者として、完全に独り立ちの昨年10月に、台風19号。気になって現場に行きましたよ。こりゃひどい、崩れているし、道路は陥没してる。イベント当日はスタッフだけで確認しようと。初っぱなからすごいアクシデントですよ。」

鳩ノ巣フィールドは大きな被害を受け、10月は参加者が来る活動を中止し、スタッフだけで現地に入った。現在、大自然塾は新型コロナウイルス感染症の影響で4月から活動を中止しており、苦労は絶えない。

これからもお世話になる小町さんに、JUONやリーダー講座で関わる若者への期待を伺った。

「種を蒔かなければ実は結ばないし、すべて実になるかどうかは分からない。学生がボランティアに来る理由が単位ということもあるかもしれないけど、関わったことが脳裏のどこかに残って、いつかどこかで芽が出てくれるかもしれない。僕の人生を考えてみても若い時から継続的に活動するのは不可能だと思いますよ。しかし、僕もそうではない形で芽が出たわけで、色々なパターンがあってもいいんじゃないですか。」

 

  • 2019年12月1日「第21期森林ボランティア青年リーダー養 成講座 in東京」の参加者と一緒に記念撮影。

  • 2010年4月18日「多摩の森・大自然塾」に初参加した際の小町さん。
 
池 大祐・鹿住 貴之
JUON NETWORK 2020年 第115号