JUONのあの人: 第11回 井上員江さん

第11回 JUONのあの人
井上員江さん

井上さんは1943年、徳島県北西部の池田町(現・三好市、2006年に三好郡内の5町村と合併)に生まれた。「昔から父親や弟が福祉関係におったりもして、最後の仕事として福祉をしてみたいなと思ったんです。」
 


JUONの活動の重要な柱である「樹恩割り箸」。製造には、知的障害者の方々が携わっています。この樹恩割り箸と福祉のつながりをつくった立役者の一人が、今回ご紹介する井上員江さんです。現在は、JUONが精神障害者の仕事づくりとして取り組む「樹の紙」を、「社会福祉法人三好やまなみ会」の事務局長の立場で進めています。
 
 

障害者に仕事があるという話に、私としては魅力を感じたんです。


「始めは一般職でした。ずっと福祉には関係なかったんです。税金関係や農林業関係の事務職とか、労働関係とかに配属されました。」

高校卒業後、徳島県庁に勤め、その後、地元の池田町に戻り結婚した井上さんは、町内の徳島県池田合同庁舎に勤務。その後本庁に戻ることもあり、福祉事務所に配属されたのは、定年退職する10年前からだった。

「最後に県庁から池田合同庁舎に戻るときに、多少の希望を聞いてくれたんですよ。それで『福祉事務所に行きたいんです』って言ったら、すんなり配属してもらえました。」

福祉だけでなく、様々な部署で働いていた井上さんには、たくさんのつながりが生まれていた。その一つが農林事務所にいたときに生まれた林務職員とのつなりである。

「農林事務所には7年間事務職でいました。そのときに、林業関係の人に可愛がってもらった。そこが複線。私が農林事務所にいたことがなかったら、今のつながりはなかったと思いますね。」

そこで生まれた人とのつながりが、樹恩割り箸と福祉がつながるきっかけになったと言っても過言ではない。

そして、実際に井上さんが割り箸の話を聞いたのは、福祉事務所の社会課にいたとき。福祉事務所にいた女性と森林組合の職員の息子さんとの結婚式の場で、初めて割り箸の話を聞いたという。

「福祉におったけんね。初め、大学生協と言われても何のことか分からんし、割り箸とかよう分からんし、私にとっては未知の世界でしょ。でも、初めて聞いたとき障害者に仕事があるという話に、私としては魅力を感じたんです。」

早速事務所に話を持ち帰り、管内にある池田博愛会の知的障害者入所更生施設「箸蔵山荘」に相談に行く。施設長が県のOBだったし、積極的な木村茂さん(JUON元理事)ともつながり、話はどんどん進んだ。箸蔵山荘の一角にあった小さな木造の作業所をボランティアさん達で直し、森林組合で製造した割り箸の最終加工を担うことになった。

その後、池田博愛会で複合施設建設の話が出たときに、関係者と一緒に、割り箸の作業場を加えてもらう案を出し、管内の町村に理解してもらうために動いた。そして、樹恩割り箸の製造を一貫して行う「セルプ箸蔵」が2001年1月に完成した。

「上司も理解してくれて、割り箸については、結構自由にさせてもらえたと思います。関係者の理解は大きいですよね。違う仕事もあるじゃないかって話になったらできんもんね。」

02年3月に県を退職後、4月からすぐに働くことになった。仕事で知り合った精神科医の先生から熱心に誘われたことが縁だ。

「先生は、『精神障害者の福祉は遅れているんだ。福祉サービスを提供できる施設づくりを手伝ってもらいたい。』と熱く語られるんです。」

病院の一室を借りて始まった法人の立ち上げと施設建設の事務作業は、かなりハードだったというが、03年4月、精神障害者通所授産施設「末広」が開所できた。

「ゼロからっていうのはすごくしんどかったけど、未知のものなので面白かった。つくり出すってことは滅多にできないんでね。よかったかなと。」

06年10月に障害者自立支援法を適用し、「ワークサポートやまなみ」と名称を変更。それに伴い、利用者の仕事を探していたところ、「樹の紙」を製造する「ビッグウィル」のことを目にした。

「たまたまビッグウィルが近くにできるってことを新聞か何かで見てね。そこに書いてあった代表の名前を見て『あれ?これって私の親戚の人?』と思って確認したら、そうだったんです。」

人とのつながりや縁を大切にする井上さんだからこそ、様々なつながりの話が舞い込んで来るのだろう。すぐさま、仕事を回してもらえないか連絡を取った。

「社長さんも以前福祉関係で働いていたから、理解があって、すぐ来てくれて、どんどんつながっていった。まあ、ピッタリ合ったという感じですね。」

現在も仕事は順調に入ってきているというが、悩みもある。

「作業室が狭くてね。県産材を使えば補助を受けられるという情報をもらったので、倉庫を改修して、作業室を造ったんやけど、仕事をしたい人はもっといるんですよね。それから、やっぱり工賃は上げたいんで、樹の紙がもっと売れて、工賃の方に回してもらえればってことですかね。」

そんな井上さんが最後にJUONに関わって感じたことを話してくれた。

「今まで私の守備範囲にはなかったような方と知り合えたってことは大きいですよね。いろんな方に巡り会ったっていうか。そういうことが一番感じたことですね。だからこそ、会員の活動を発信して、もっと会員同士のつながりを活かすようなことができればいいなと思います。」
 

  • 「ワークサポートやまなみ」の倉庫を改修して造った「樹の紙」の作業室。

  • 「ワークサポートやまなみ」では、手すき和紙で作る名刺も販売している。その材料のコウゾを見せてくれた井上さん。
 
鹿住 貴之・柳井 賢太
JUON NETWORK 2012年 第81号