JUONのあの人: 第7回 仲井博信さん

第7回 JUONのあの人
仲井博信さん

仲井さんは1950年生まれ、「代々横蔵小の卒業です。子どもが通っていた頃にも廃校の危機があり、PTA会長として学校を元気にしたいと学校林に木製アスレチックをつくりました。シーソー、30mの吊り橋・・・。だから、この森林いは思い入れがありますね。」
 


来年3月で祝・20回!岐阜県揖斐郡揖斐川町(旧谷汲村)で2004年から開催してきた「風の谷 森林の楽校」。廃校をリメイクした「ラーニングアーバー橫蔵」を拠点に、近くの財産区の山を手入れしてきました。横蔵財産区管理会・副会長で、作業の指導をしていただいている仲井博信さんにお話を聞きました。
 
 

一つだけ心配なのは、今の作業をずっとやっていくと皆さんにお手伝いいただく場所がなくなってくるんです。


「その頃の消防車っていうのはオープンカーだったからね。ドアがなくて、屋根は幌。冬はむちゃくちゃ寒かった!」

今年、35年間勤めた消防署を退職した仲井さん。

「学校を卒業して4年ちょっと、岐阜市で自動車の整備士をやっていたけど、『地元で消防署職員の募集がある、長男だから帰って来い』と親父に言われて、嫌々試験を受けました。」

そんな仲井さんだが、地元のことを思う気持ちは人一倍強い。「風の谷 森林の楽校」が始まった当初、活動をする場所に困っているという話を聞いた仲井さんが、財産区の山を森林ボランティアに任せてはどうかと管理会に提案してくれた。以来、仲井さんには、道具の手配、作業の指導とお世話になりっぱなしである。

「初めは林齢でいうと20年も経っていないような細い木ばっかりのところを作業したんです。それが、だんだん回数を重ねるうちに山の斜面は急になるし、木も太くなるしということで弱ったなぁと思っていました。でも、その頃には毎回三分の二の人がリピーターになっていて、この人は前回あの作業をしたから今回ここまでは大丈夫だろうということで班分けをしたり、経験に応じて作業の内容を考えたりして回を重ねていきました。今まで通りで良ければ、体が続くうちは関わりたいと思っています。山そのものが好き、と言うよりも木が好きと言った方がいいのかな?」

どちらがスタッフかわからないほど、毎回来てくださる熱心なベテラン参加者が多いことが、いつしか「風の谷 森林の楽校」の大きな特長になっていた。だからこそ、手入れを続けることができ、4年が経って、真っ暗だった森林は一番下の川が見えるほど明るくなった。

おかしなことだが、森林が明るくなると心配ごとは増える。

「一つだけ心配なのは、今の作業をずっとやっていくと、皆さんにお手伝いをいただける場所がなくなってくるんです。もっと高いところの枝打ちをするか、もっと太い木のあるところへ移動して間伐をするか。そうなると初心者にはちょっときついかなぁ。」

森林にはまだまだ手入れが必要だが、その内容はまた一段難しくなる。「高いところの枝打ちはベテラングループの技術を磨いて、間伐は伐る位置を高くして幹の細いところにすれば…」と、仲井さんは次の策を考える。

「本当は道具もそろえたい。せめてヘルメットと鋸だけでも20セットは。でも予算がないから、山林事務所へ行って借りています。本来は貸し出していないけど、事情を説明したら『少なくとも今の担当者がおるうちはいいよ』と。そのかわり向こうの行事と重なった時は貸してもらえないからね。今回もハラハラしとった。」

「森林の楽校」が終わった後も、仲井さんは一つ一つ道具を点検して返して下さっている。ここまで続けるために、仲井さんや参加者の皆さんのおかげが、どれだけ大きかったか。あらためてその大きさを見上げるような思いがする。

「役に立てれば」とボランティアに来ていただく皆さんの気持ちと、現場の状況が上手く噛み合うようにする難しさはある。でも、都市と農産漁村のつながりをつくるということは、どちらのためでもなく、一緒に楽しみながら続けていく感覚が大切だと、仲井さんの話を聞いて思う。

「遠いところからこんな田舎へ来て、作業が辛いだけなら一回で終わると思うけど、毎回来てもらえるということは、ラーニングアーバーが魅力なのか、山が魅力なのか、何が魅力なのかわからないけれども非常にありがたく思っています。じゃあ昔から地元に居る人はどうかというと、子どもはどんどん外へ出て行く。過疎化が進んで、60才でも青年部という非常に残念な思いをしています。」

次の展開として、仲井さんは財産区以外の場所も視野に入れている。7000平方mの芝生広場や6000mの遊歩道がある「いこいの森」だ。今まで管理していた方が亡くなったと聞き、地域おこしにつなげるためにも替わりに地元で人を集めてやりたいと、仲井さんが役場へ話しに行ったそうだ。

「芝刈り、さつきや紫陽花の剪定、遊歩道の補修。やることはいくらでもある。半分は遊歩道の草刈り、半分トレッキングのような感じで、2日間のうちの一日でも、森林の楽校参加者と地元のグループで一緒に作業ができないかな。それが、地域おこしにつながるといいなぁと思うんだよね。」

森林や地域の状況に合わせて、「森林の楽校」もバージョンアップが必要だ。仲井さんをはじめとする地元皆さん、そして参加者の皆さんと次のステップに向き合っていきたい。
 

  • 横蔵小学校をリメイクした合宿研修施設「ラーニングアーバー横蔵」。小林正美JUON副会長が代表取締役の(有)樹庵が運営。地元のNPO、ぎふいび生活楽校による、木工・草木染め・藤鶴工芸など様々な体験ができる。

  • 秋には、仲井さんからたくさんシイタケの差し入れが。自ら料理まで買って出て下さる仲井さんの人柄も人が集まる要因の1つ。
 
須田 直菜・日吉 沙絵子
JUON NETWORK 2010年 第76号