第5回 JUONのあの人
宮崎省三さん
宮崎さんは1944年、京都市生まれ。「子どもの頃、里山には関心がなかったですね。小学校の頃、近所の竹林で悪ガキが集まり、小屋みたいなものをつくりましたが、私はボーっと見ていた一人でした。」
宮崎省三さん
宮崎さんは1944年、京都市生まれ。「子どもの頃、里山には関心がなかったですね。小学校の頃、近所の竹林で悪ガキが集まり、小屋みたいなものをつくりましたが、私はボーっと見ていた一人でした。」
2007年京都で開かれた総会を覚えていますか?その日をきっかけに生まれた「樹恩割り箸で炭を焼いて商品化し、障害者の仕事をつくろう」というプロジェクトが、3年経った今も地道に歩みを進めています。発起人であり、京都府亀岡市で里山の整備と炭焼きを行っている京都竹炭クラブ代表の宮崎省三さんにお話を聞きました。
何も考えんとただ森林の中にいる。そんな時間を持てたらいいなぁ。
「人が助けてくれるってことは、私達がやっていることが間違いではないのだなぁって思います。製品化を手伝ってくれたり、店先で売ってやろうと最近何人かが言って下さるようになって…」と、今の心境を語る宮崎さん。
宮崎さんは大学を出た後、京都生協に就職。職場の関係で障害者の方々と一緒に活動する機会があり、たくさん教わることがあった。いつか恩返しがしたいと思ったそうだ。炭焼きに関心を持ったのは今から11年前。
「私の長兄が京都西山で環境保全の活動をやっていて、その中で最後の世代の『炭焼きさん』の聞き取り調査をしていました。話を聞いて、『炭焼き』に不思議なものを感じたのが、炭焼きを始めるそもそものきっかけでした。それから、京都、大阪、奈良などでボランティアの炭焼きさんを訪ねては炭焼きのノウハウを教えてもらいました。」
同僚2人が宮崎さんの炭焼きの話に共感、00年に3人で竹炭クラブ設立総会を開いた。炭焼きができる場所を探していたところ、亀岡の姪が休耕田を紹介してくれ、炭焼きを始めた。その後、竹炭づくりに理解があり、現在の「炭焼村」の土地を提供していただいている農家の方と出会い、地元の障害者の作業所ともつながりができた。しかし、作業所での製品づくりはなかなか進まなかった。
「竹炭を障害者の皆さんが踏んで粉にした物を袋詰めにして、『土壌改良材』ができた時は感動でした。その後その製品は定番になり、5年続いています。最近は亀岡にある温泉の大きなホテルが、たくさん買い上げて下さるようになりました。」
JUONに関わるようになったきっかけは、市民生協で仕事を通じて知り合った重元勝さん(JUON理事)からの誘い。京都の総会に実行委員として参加した時、国産間伐製「樹恩割り箸」についての学生達の発表を聞き、割り箸炭の構想が生まれた。
08年、会員活動の活性化のためJUONが行う資金援助を受け、「割り箸炭づくりプロジェクト」が動き出した。同年5月、宮崎さんから事務局に届いたメールにはこう記されている。
「このところ私は割り箸炭の試作品作りに追われています。勤めている会社の食堂から使用済みの割り箸をリュックに詰めて担いで帰り、それを炭にし、試行錯誤しながら試作品を作っています。家族から部屋が汚れるという苦情を聞き流し、部屋いっぱいに試作品を広げながら…。」
その後、京都大学11月祭で使用済みの割り箸を炭にできないかと、学生から依頼があった。大量の割り箸が炭焼村に届き、一挙にかなりの量の割り箸炭ができることとなる。しかし、その炭の行き先がなく、割り箸炭の入った段ボールがたまっていった。
販路は思わぬところから開けた。大学生協のホテル・コープイン京都の環境監査を担っているステークホルダー委員会から、客室の消臭・除湿剤に「炭製品」が使えないかという問い合わせが入ったのだ。支配人に会って試作品を見せたところ、客室や冷蔵庫用に利用してもよいとの嬉しい返答。苦労して作った試作品が陽の目を見ることとなった。
その後コープイン京都で使われた樹恩割り箸の炭が完成。10月の大学生協全国環境セミナーでは、大手前大学メディア・芸術学部の久木一直教授の協力で完成した割り箸炭のオブジェが話題を呼んだ。この一連の取り組みは新聞報道でも取り上げられた。現在、割り箸炭はコープインのフロントや知り合いのお店の店頭で販売してもらっており、「人は森林から色んな物をいただいて暮らしている」というメッセージを発信しながら少しずつ広がっている。
炭焼村では、山主さんとの関係が深まり周辺の里山の整備も始めた。素晴らしいメンバーに出会え、現在は10人が活動中。JUON関西中国地域の活動「青春自然塾」も毎月行われている。
「若い世代と我々の世代が一緒にやれるというのは、JUONのものすごい大きな特徴だなぁと感じています。どこの環境団体も後を継ぐ若い人達の参加がなくて困っているんです。最近、亀岡の農家の人達が、ヘルメットを被り、鋸やナタを持って山に入る若い女性の参加者を見てとても驚いていました。中にはスカート姿の人もいて、これはもう晴天の霹靂でした。」
森林にいる時間は人の原点であると、敷居を低くし、多くの人が参加できる活動を目指す宮崎さん。
「何にも考えないで、ただ森の中にいる。そんな時間を持てる組織として、JUONが広がればいいなぁと思っています。環境問題や京都議定書なんかはひとまず置いて。若者が異世代の人達と出会い、焚き火を囲んで、木漏れ陽の下、小川の側で語り合う。森林は全てが舞台になります。学校で学べない多くのことを、森林をフィールドにして学び合えたらと願っています。」
エコホテル宣言をしているコープイン京都に置かれた割り箸炭のオブジェ(京大11月祭の割り箸使用)と、戸棚や冷蔵庫用の脱臭・吸湿剤(コープイン京都レストランの樹恩割り箸使用)。
活動拠点の炭焼村。森林ボランティア青年リーダー養成講座in関西で炭焼きを教える宮崎さん。
須田 直菜・田中 みと
JUON NETWORK 2010年 第74号
JUON NETWORK 2010年 第74号