第42回 JUONのあの人
東吉一さん
東さんは、1968年三重県度会郡南勢町(現・南伊勢町)で生まれた。農協では、ガソリンスタンドや購買店勤務、農機担当などを経て、現在は南伊勢経済センター地域振興グループのグループ長に。営農指導のほか、共同選果施設の場長も引き受けている。地域柄、農協としては特殊な組織構成で、少数精鋭で切り盛りしている。「名前は『グループ』ってなっとるんですけど部下いないんですわ。部下はいないけど、グループ長です(笑)。」
東吉一さん
東さんは、1968年三重県度会郡南勢町(現・南伊勢町)で生まれた。農協では、ガソリンスタンドや購買店勤務、農機担当などを経て、現在は南伊勢経済センター地域振興グループのグループ長に。営農指導のほか、共同選果施設の場長も引き受けている。地域柄、農協としては特殊な組織構成で、少数精鋭で切り盛りしている。「名前は『グループ』ってなっとるんですけど部下いないんですわ。部下はいないけど、グループ長です(笑)。」
昨年から3番目の「田畑の楽校」として、三重県南伊勢町で始まった「南伊勢のみかん 田畑の楽校」。そこで、ボランティアと現地の農家とのパイプ役をしていただいているのが、伊勢農業協同組合の東吉一さんです。これまで農業を通した地域づくりに取り組んでこられた東さんに、仕事に込める思いを聞きました。
地域貢献を意識した活動をやってかなあかんなと。
「みかんは確実に魅力の一つ。自分とこのみかんを食べていただいて、他の地域よりおいしいのぉと言うてもらうと、うれしかった。やっぱり地元のみかんに対しての誇りがあるのかなと思ってます。」
三重県の南勢町(現・南伊勢町)五ヶ所浦で生まれた東さん。みかんの産地として知られるこの地域で、祖父もみかん畑を持っており、子どもの頃から両親とともに収穫などのお手伝いをして育った。地元の工業高校を卒業後は、愛知で就職。しかし、親戚の不幸がきっかけで、なるべく家族の近くにいたいと思うように。そして、2年後の1988年10月、ちょうど農協の求人が出ていたことが後押しとなって、Uターンを決意した。
「田舎ではない生活は、いろんな面では融通が利いてよかったんですけど、地元のみかんには愛着があったんで。ちょうど農協っていう仕事の紹介とそれが結びついて。ああ、やっぱり帰ろっということで、帰ってきました。」
転職して2年後に農業関係の担当になる。みかん畑を手伝っていた経験はあるものの、具体的な知識や栽培方法などは、地元の農家を訪ねて一から学んでいったという。
「年配の方で美味しいみかんをつくってる農家さんがいるんで、『分からん〜、おじちゃん教えて!』って言うて。そういう農家先生に教えを請うなかで、いろんな農協組織とか県の組織とのパイプを構築していきました。」
「関係ない人達がここまで熱意を持ってね、関わろうとするのを見ちゃうと、逃げ出すわけにはいかんなこれはって、逆に自分の中の考え方が少し変わってきて。」
農家との関係づくりに力を入れて、意見交換をしつつ親睦を深めていったことが、農協で働くよい刺激になったと話す東さん。時には農家と協力して、地域の課題を役場に訴えることも。
「みかんに対して猿とか猪、鹿が被害を与えとるという現状のなかで、自分らがいち早く取り組んだんですわ。『こうせないかんて!』とやっとると、今度は逆に町の方が先進的になっていただいたんです。」
南伊勢町の獣害対策は進み、一時の被害から改善が見られるようになった。
現在、営農指導担当を務めて約20年。今では東さんが、農家に対して経営や栽培技術の指導を行っている。また、行政と連携して農家の思いや現状を人々に伝えるなど、生産者と消費者をつなぐ役割も担う。仕事への信頼は厚く、農業担当を辞めてほしくないという地域からの声も多い。
「自分は本当に、地域の人らに生かしてもろてるんやなと、つくづく感じて仕事やってますんで。この地域に根ざした農家づくりをしてかなあかんなと。役場と農家さんともタッグ組んでやっていきたい。農協の思いだけじゃなくて、地域貢献を意識した活動を仕事としてやってかなあかんなという使命で。」
南伊勢町は今、農家の高齢化と後継者不足の課題を抱えており、地域で協議会を上げて対策を練っている。そのなかで、かつてJUONの活動に参加したことがあった農林水産省からの出向職員が、援農ボランティアの受け入れを提案した。これが、JUONとのつながりの最初だ。町では、それまでよそ者を受け入れた前例はなく、なおかつボランティアに馴染みがなかった東さん。提案を受けた当初は、ボランティアに何をしてもらえばよいか見当がつかず、戸惑いが大きかったという。
しかし、実際に「南伊勢のみかん 田畑の楽校」を開催して、リピーターも出てきたなかで、その見方は大きく変わった。
「ものすごくありがたいというのが第一声なんですわ。自分が思っておった感覚より、皆さんボランティア精神を持っとるんやなぁと感じられて。活動を通じて南伊勢町に対して魅力を感じてもらえたら本当にありがたいなと思ってます。」
今年で開催は2年目。今後は、地域の人をもっとたくさん巻き込みながら、活動を長く続けていきたいのだと力を込める。
「いかに私はこのエリアの高齢者、生産農家さんにうまいこと交流を持ってもらって、Win−Winの関係になれるかというのが課題かなと思っています。JUONさんとかと一生懸命しっかりと仕組みづくりをして、それを提供していきたい。農家さんが高齢化のなかでも、誇りを持ったみかんづくりをしていただけるように。」
2019年9月29日「南伊勢のみかん 田畑の楽校」の閉校式の際の東さん。
2018年2月26日「田畑の楽校」の開催に向けて、視察を行った。
遠藤 紗穂里・鹿住 貴之
JUON NETWORK 2019年 第112号
JUON NETWORK 2019年 第112号