第20回 JUONのあの人
栗尾敬治さん
栗尾さんは1955年、広島県尾道市に生まれた。尾道東高校、農大農学部林学科を卒業後、尾道市農協で約10年営農指導員として勤務。その後、父親の経営する廃棄物処理業(有)栗尾衛生社バイオマス事業所を引き継ぎ現在に至る。「尾道に来る機会があれば、今では珍しいロータリーレース方式で作ったアカマツ材の小判割り箸を使う老舗の中華そば屋さんがあるので、是非」
栗尾敬治さん
栗尾さんは1955年、広島県尾道市に生まれた。尾道東高校、農大農学部林学科を卒業後、尾道市農協で約10年営農指導員として勤務。その後、父親の経営する廃棄物処理業(有)栗尾衛生社バイオマス事業所を引き継ぎ現在に至る。「尾道に来る機会があれば、今では珍しいロータリーレース方式で作ったアカマツ材の小判割り箸を使う老舗の中華そば屋さんがあるので、是非」
2010年9月、広島の尾道市にある「さくらの里」でも樹恩割り箸の製造が始まりました。導入にあたり、中心的に動いてくださったのが栗尾敬治さんです。普段は水処理の仕事をされていますが、割り箸の製造に関わるようになったいきさつや、これからへの思いについて聞きました。
林産物・木工加工も含めて、林業振興につながっていけばいいと思います。その一つのアイテムが割り箸なんです。
栗尾さんと割り箸の出会いは、ペレットがきっかけ。10年ほど前、広島県北にある庄原市が拠点の「NPO法人森のバイオマス研究会」主催の秋祭りに参加したのが始まりだった。ペレットストーブの展示などを見てペレットに魅力を感じ、研究会に所属して活動するようになった。里山整備とともに、豊富な山の資源を活用して庄原市内でペレットを作ろうという活動方針で、庄原市や商工会議所など産官学連携事業の研究会の一員として、栗尾さん自身も全国のペレット工場を見て回った。市内でのペレット工場立ち上げの話が進む中、それに先行して、2006年に栗尾さん個人でペレタイザーを導入、広島県内で商業ベースでペレットを製造したのは初めてということになる。もともと山登りが好きで林学科に進んだ栗尾さんだが、卒業後は農協に勤めるなど、林業の世界からは離れていた。
「林業に関われる仕事っていうのは、おそらくもうないだろうなと。特に尾道は林業がないですから。でも関わりたいと思っていたので、ペレットの活動は嬉しかったですね。」
しかし、尾道市周辺ではペレットストーブやペレット燃料はあまり売れなかった。そんな時、栗尾さんが思い立ったのは・・・。
「尾道は飲食店が多いんでね。使用済み割り箸を回収してペレットにすれば話題性があるなと思って。」
ちょうど、農林水産省でも割り箸のペレット化の事業があった時。飲食組合に話を持って行くと協力してもらえることになり、回収してペレットを作るようになった。それをきっかけに市も賛同し、市役所にペレットストーブを置いてくれるなど広がっていった。
それから割り箸のことを独自に調べ始め、多様な種類があること、多くが中国産であることなどを知る。田中敦夫さんの『割り箸はもったいない?』や、農工大の佐藤敬一准教授の『大学食堂のゼロエミッションへのアプローチ』を読み、ちょうど長男が農工大に通っていたので研究資料をもらってきてくれるよう頼んだ。
「水処理の仕事をしてますから、発想は私が思っている通りだったんですよね。水を汚したら元へ戻すって大変なんです。現実的には綺麗な飲める水に戻すことはできないですね。すごくエネルギーを使いますから。だから、なるべく水を汚さないことが大切で、そういう面でも割り箸の使用は一つの方策だということで、これは素晴らしいなと思いました。」
JUONの理事でもある佐藤准教授から樹恩割り箸のことを聞き、その後、JUONの事務所を訪問。調べていくうちに、「割り箸オタク」化してしまったという栗尾さんが語る。「天削げ」・「らんちゅう」など高級割り箸の産地に代表される奈良吉野に対し、岡山県や広島県では、「ロータリーレース(かつら剝き)方式」でアカマツ材を使った「お弁当用の折箱」や「小判割り箸」・「元禄割り箸」などがかつて大量に作られていたという。
徐々に自分で割り箸を作ってみたいという思いが強くなり、それには是非、コンセプトのある樹恩割り箸に参加したいと思うようになった。樹恩割り箸には障害者の方々の就労支援という側面もあるので、農協時代のブドウ農家の友人が「社会福祉法人 若菜」の理事をしていたこともあり、若菜の「さくらの里作業所」で割り箸作りを始めようということになった。
割り箸製造を始めて3年半。割り箸作りの難しさを痛感しているという。中国産との価格差や、障害者の仕事作りという面で、割り箸だけで事業を継続していくには工夫が必要だと感じている。
「ペレットもそうですけど、国産材を使ったいろんな林産物・木工加工も含めて、林業振興に繋がっていけばいいと思います。その一つのアイテムが割り箸なんです。今後もいろんな方面に可能性を探りたいなと思っています。」
そのためにも、現在全国6ヶ所にある樹恩割り箸の作業所間で、情報交換の連携をしていきたいと話す。
最近では、地元の食材にこだわったうどん屋さんを自ら森に案内して間伐の大切さなどを説明し、樹恩割り箸を紹介した。その口コミで新たな割り箸利用者の輪が広がりつつあるという。
「せっかく林業や、国産材の有効利用のお手伝いをさせていただけるようになったので、割り箸を通してもっと国産材が広く知られていくようになればと思っています。また、大学生など若い人たちに、日本の農業、林業、農山村についてもっと知っていただきたいので、割り箸に限らず、木工や農産物生産など、ものづくりを通してその素晴らしさを伝えるお手伝いをしていきたいですね。」
関西中国地域ブロックの割り箸工場見学会の際に、学生に熱心に指導する栗尾さん。
割り箸作りに取りかかる栗尾さん。
鹿住 貴之・徳田 一絵
JUON NETWORK 2014年 第90号
JUON NETWORK 2014年 第90号