第34回 JUONのあの人
久古隆一さん
久古さんは1938年に兵庫県宍粟郡千種村(現・宍粟市)で生まれた。現在は鉄筋コンクリートに建て替えられた千種北小学校が、まだ木造で赤土壁だった時代。戦中戦後は、グラウンドを畑にしてサツマイモなどを作っていた。「昔の土つけた建物やったらね、廃校になった後の利用価値がものすごくあった。もう鉄筋コンクリートはあかんわ(笑)。」
久古隆一さん
久古さんは1938年に兵庫県宍粟郡千種村(現・宍粟市)で生まれた。現在は鉄筋コンクリートに建て替えられた千種北小学校が、まだ木造で赤土壁だった時代。戦中戦後は、グラウンドを畑にしてサツマイモなどを作っていた。「昔の土つけた建物やったらね、廃校になった後の利用価値がものすごくあった。もう鉄筋コンクリートはあかんわ(笑)。」
今年、第11期を迎えた「森林ボランティア青年リーダー養成講座in関西」。そのなかで、最近毎年見学させていただいている、兵庫県宍粟市千種町にある建具屋を営んでいるのが久古隆一さんです。無我夢中で建具を作ってきたなかで、向き合ってきた森づくりへの思いについて、お話を伺いました。
山で育った木が、消費者から求められやすい関係づくりを。
「当時は生活必需品が野山のもんが主体だったでね。山へ植林とか、炭焼きとか、薪こしらえたりとか。」
今から65年前、久古さんが住む千種町(現・宍粟市)では、中学を卒業した約8割の人が、進学せず山仕事に行っていたという。木挽きだった父親を持つ久古さんも、15歳の時から山へ働きに出るようになった。
「僕は木伐りをしおったなぁ。原木を倒すんじゃ。手ノコじゃき、チェーンソーがないから、こんこんこんこん挽いて。」
機械があまりなかった当時、作業のほとんどは手道具を使って行った。木を枯らすのも、山の上で寝かせて自然乾燥。そうしてできあがった原木や材木は、毎日、何台ものトラックに積み込まれ、神戸や大阪の市場へ運ばれていった。薪や炭、杉皮などが、まだ都市部でも需要が高かった時代である。
そのうち、20歳で山仕事を辞め、大工の見習いとして出稼ぎに出ることに。しかし、独立して働きたいという意思が強かったため、24才で「久古建具店(現・ちくさ木材技研)」を開業した。千種町中心部の商店街で納屋を借りて始めたが、一人前になる前に独立したため、当初は大変だったと話す。
「最初始めた時、お金がないし、材木が手元になかったもんやで。木を手元に置いとかな、どうにも商売ならんな思うて、無理して借金を。そしたら、段々木にこだわるようになりだしたのぉ。」
建具や木材加工への研究は熱心だった。同業者の技術を観察し、どこへ行くにも、窓や障子の開口部に目が行ったという。また、いくつかの建具組合に顔を出し、同業者の知り合いを積極的に増やしていった。
店を始めてから20年ほど経ったある日、登山に行った久古さんは、広葉樹の景色に目を奪われる。様々な色の樹木が立ち並ぶ山が、そこには広がっていた。
「気がついたら植林ばっかりして、山の色は一色になってしもうとった。広葉樹の素晴らしいのがあって、こういう山が千種もないといけんのぉと思うたな。」
そうした山への思いを抱きながら商売を続けていくなか、2000年にJUONの総会が千種町で開催された。この時のテーマは、「流域を結ぶ―清流千種川からの招待状―」。開催にあたって、当時千種町長だった小原朗さん(JUON元理事)達が千種川流域の市町村長へ挨拶回りをする際、久古さんも同行した。このご縁で、01年から千種で「清流の森 森林の楽校」が開かれるように。途中、活動地が旧・一宮町(現・宍粟市)の中坪へ移ったことで、一時的に直接の交流は途絶えてしまった。しかし、10年から「森林ボランティア青年リーダー養成講座in関西」で再び千種に訪れるようになり、毎年受講生達と久古さんの建具店を訪問している
「10年、100年先を考えたら、過疎対策の一番絶対やらないけんのが、森林整備や。それをせなんだらもう過疎対策は解決せえへん。JUONが一番心がけてくれとってん森づくり。これは全国展開、きっちりしてもらわなんと。山は蘇らせな、いけん。」
市も、コミュニティバスの開通や温水プールの設置など、過疎化対策に積極的に取り組んでいる。だが、目先のことばかりでなく、地方創生の根本は森なのだと、行政にも訴え続けてきた久古さん。小さい頃から山に親しみ、木に向き合ってきたからこその思いである。
「日本は自然が豊か。なんで、外国人の観光客もどんどん増えよるわけやしな。また、治安もええ。水飲んでも、お茶飲んでもおいしい。それはやっぱり日本の国の一番の財産やで。」
建具を通して、森林と都市をつないでいきたいのだと力を込める。もうすぐ80歳を迎える今も熱意の衰えない久古さんに、今後の抱負を聞いた。
「山で育った木がね、製材所で眠っとんのがよくある。それを私んとこで加工すると、一般消費者がそのまま使えるわけや。僕のチャレンジはね、木の住宅を1軒でも2軒でも増やすというか、消費者から求められやすい関係づくりをすること。もうちょっと努力せないけん。」
2011年11月「第5期森林ボランティア青年リーダー養成講座in関西」で建具についての話をする久古さん。
2016年11月「第10期森林ボランティア青年リーダー養成講座in関西」のメンバーと一緒に記念撮影。
遠藤 紗穂里・鹿住 貴之
JUON NETWORK 2017年 第104号
JUON NETWORK 2017年 第104号